滅菌,消毒,無菌について

滅菌とは

滅菌とはすべての微生物を殺滅または除去する行為を指し,微生物を限りなくゼロにする確率論的 な概念である。微生物の存在する確率が 10 -6 以下に達したとき「滅菌」として定義されており,無 菌性(滅菌)保証水準(sterility assurance level:SAL)であるとされている。消毒とは,病原となる微 生物の感染性をなくすか,菌数を少なくさせることを指している。これに対して無菌は微生物が存在しないことであり,絶対的な概念である。 滅菌における微生物の死滅は指数関数的に減少することから滅菌前に被滅菌物に付着している微生 物数を洗浄によって減少させておくと,短時間で無菌性保証水準が得られることになる。

滅菌法の種類

加熱滅菌として高圧蒸気滅菌、乾熱滅菌が、ガス滅菌として酸化エチレンガス(EOG)滅菌が、照 射滅菌として放射線滅菌、電子線滅菌がある。一部のものには濾過滅菌や化学滅菌剤(過酸化水素低温プラズマ、過酸化水素ガス,ホルムアルデヒド)による滅菌が行われる。医療機関では高圧蒸 気滅菌,EOG 滅菌,過酸化水素ガス低温プラズマ滅菌、過酸化水素ガス低温滅菌、低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌が主なものである。

高圧蒸気滅菌について

高圧蒸気滅菌は確実な方法であり最も広く用いられており、最も安全かつ信頼性の高い滅菌法で、経済的でもある。加熱されたタンパク質が凝固変性して微生物を死滅させる。耐熱性、耐湿性のある滅菌物に適している。材質としては金属、ガラス、磁器、紙、ゴム、繊維製品に加えて水、培地にも適しており、かつ形態に関わらず細いものや複雑で入り組んだ器材にも適用でき、芽胞にも有効である。

本滅菌法では温度 135°C,圧力 3.2 kgf/cm2,約 20 分までの滅菌が一般的である。滅菌時には圧力、 温度、湿度、時間を検出し、温度、時間、圧力の値を記録に残しておかねばならない。滅菌に影響を 及ぼす蒸気の質としては非凝縮性気体(non condensable gases:NCG)、蒸気の乾き度、異物の存在が指摘されている。

酸化エチレンガス滅菌について

確実な滅菌法であるが毒性があることや発癌性,大気汚染の問題からその使用は最小限にすべきである。非耐熱性の滅菌に適しており,合成樹脂製品,内視鏡類が対象である。滅菌モニターとしては温度,湿度,EOG 濃度,時間が求められる。滅菌後には十分なエアレーションが必要であり,滅菌物に水があると加水分解して EOG濃度が低下する可能性や毒性のあるエチレングリコールの遺残する恐れがあるので,安全に対する注意が必要である。

EOG は,女性労働基準規則(女性則)として,妊娠や出産・授乳機能に影響のある化学物質の規制対象になっている。また,特定化学物質障害予防規則に従って作業主任者の選定が必要で,半年に 1 回以上の作業環境測定と作業従事者の健康診断が求められている。

酸化エチレン(別名:エチレンオキシド)

主な性状:無色気体,エーテル臭 人体への影響:蒸気を吸入すると,低濃度の場合は悪心・吐き気,高濃度の場合は目・皮膚・粘膜 を刺激する。

発ガン性有り

許容濃度:1 ppm(日本産業衛生学会) 保護具:有機ガス用防毒マスクまたは送気マスク,保護メガネ,保護手袋を使用する。
化学物質の危険・有害便覧(中央労働災害防止協会編)による

特定化学物質障害予防規則(特化則)

労働安全衛生規則,及び特定化学物質等障害予防規則の一部を改正する省令(エチレンオキシド追 加措置の件)は,労働安全衛生法に基づき,労働者の健康確保・労働環境悪化の防止を目的として制定され,2001(平成 13)年 5 月 1 日に省令施行されたものである。この規則は遵守すべき基準を,法的に表示したものである。

酸化エチレンに対しての主な事項

  1. 使用に関して密閉設備(構造)であること〔滅菌器,消毒器の重要性の再確認〕
  2. 管理濃度:1 ppm(= 10 分間以上の検出平均値による)〔安全値の再設定〕
  3. 作業主任者(管理者)の選任〔責任所在の明確化〕
  4. 作業記録の作成,保管〔実態の把握〕
  5. 作業環境測定(年 2 回の測定)30 年間の保存〔安全の確保〕
  6. 消毒器の定期的な自主点検〔装置の継続的安全使用〕
  7. 作業従事者の一般健康診断(年 2 回)〔健康維持管理〕
  8. 使用指定化学物質の掲示〔管理・取扱いの注意と徹底〕
  9. 『特定化学設備』に準拠した対応〔管理内容の明確化〕

過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌、過酸化水素ガス低温滅菌について

過酸化水素低温ガスプラズマ滅菌では,フリーラジカルを発生させて微生物の細胞壁,核酸,酵素 を障害して滅菌する。約1時間で滅菌が終了し,直ぐに使用できることと毒性がないことが特徴である。最近では約 30 分にて滅菌できる装置が開発されているが,ランニングコストは他の滅菌装置に 比べて高くつく。セルロース,ガーゼ,スポンジ,粉末,液体は滅菌できないし,包装紙もポリエチレンやポリプロピレン製が必要である。細い管腔を有する器材にもブースターを取り付けて滅菌できるが,ガスプラズマやガスの拡散を障害する包装形状には注意が必要であり,滅菌可能かどうかは製造業者に確認すべきである。

過酸化水素ガス低温滅菌は59%の過酸化水素水溶液を真空条件下で加温気化させガス状にして, 更に清浄な空気を導入して過酸化水素ガスの浸透性を高めた滅菌である。包装材にはポリプロプレン製やポリエチレン製不織布を用いる。過酸化水素を吸収する紙,リネン,綿布,ガーゼ,セルロースおよび液体や粉末は滅菌できない。

ホルムアルデヒド滅菌は欧州では 50年以上も前より使用されてきた滅菌法で,低温蒸気ホルムアルデヒド滅菌では機械的制御として圧力,温度,時間をモニターし,予備加熱,空気除去,プレコンディショニング後に滅菌工程を行い,その後に RO 水の蒸気パルスとエアパルスによる離脱をおこなう。OH 基による蛋白質の凝固と核酸のメチル化によって滅菌される。対象器材は基本的に EOG 滅菌と同じで,包装材としては不織布が推奨されている。滅菌コンテナの使用は確定されていない。ホルムアルデヒドは国際がん研究機関が発がん性があると認定しており,EOGと同様に特定化学物質障害予防規則に含まれている。

日本手術医学会 引用